本文へ移動

学長式辞(令和4年度入学式)

 本日晴れて入学式を迎えられる看護学部56名、大学院看護学研究科2名、助産学専攻科8名の皆様、ご入学おめでとうございます。感染防止のためにこの場にはおいでいただけなかったご家族、関係者の皆様にもお祝い申し上げます。例年であれば、敦賀市長様はじめ大学の運営にご尽力いただいている皆様にもご臨席いただくのですが、感染拡大防止のために、教職員と学生だけの入学式とさせていただきました。新入生の皆様にもさみしい思いをさせてしまっているかと、心苦しく思います。

 新入生の皆様は、新型コロナウイルスの世界的パンデミックのなかで高校生活の大半を過ごされ、勉学の環境としては不利な状況におられたと思います。学校行事も中止され友人と楽しく語らう時間も思うように取れなかったのではないかと思います。その中にあっても、受験勉強を継続し、入学を果たされました。私たち公立大学法人敦賀市立大学は皆様のご入学を心から歓迎します。

 さて、本学は、学部においては看護師と一部保健師、専攻科においては助産師、大学院においてはより高い専門性と研究によって看護学に貢献できる人材の育成を行っています。大学の教育理念として、豊かな教養、総合的な判断力、高度な専門的知識を持った人材育成をうたっており、「看護職になる」という目の前の目標だけでなく、社会人としての教養を身につけ、物事を深く総合的に思考することのできる人を育てたいと願っています。

 昨年度、私は、1年生の授業で、看護の様々な課題を学生に投げかけました。学生にはグループで調べたり考えたりしてもらいました。実はどの学問も職業もそうですが、教育現場でも臨床現場でも多くの課題を抱えています。皆さんもご存じのように新型コロナウイルスに罹患した患者さんを看病している看護師たちの過酷な労働も問題ですし、現場の看護師たちは、患者さんの人権や尊厳をどこまで保証してあげられるか倫理的な葛藤を抱えています。人口当たり米国の4倍以上のベッド数を誇る日本でなぜベッド不足が起きたのか、1ベッド当たりの看護師数はどうやって決まるのか、看護の教育の仕組みはどうなっているのか、なぜ専門学校や4年制やいくつもの種類の教育課程があるのか、本学の1年生はほとんどが高校を卒業して1年目の人たちですので、どこまでこのような課題について探索できるだろうかと思いましたが、最後に多くの学生が書いてくれたのは、「看護学を学問として大学で教育することの重要性」「看護の専門性」についてでした。ナイチンゲール以来、看護師たちは看護の教育は大学教育であるべきということ、もちろん修士博士などの大学院教育も必要であると主張しつづけてきました。現在、日本には看護系大学は令和3年5月で275校あります。厚生労働省や防衛省が開設している大学校、1校で複数課程を持つものもカウントすると290課程、修士は196校、博士は108校存在します。この数はどの学問分野にも劣らない数字で、例えば、私が看護を学んだ40年前と比べると、看護学の学問としての立場はゆるぎないものになっています。
 
 大学は学問を学ぶ場ですので、看護だけでなく「看護学」を学ぶということになります。看護学は実践科学ですので、知識だけでなくそれを実践できることによって初めて意味が出てきますし、実践を通して学問も発展します。ですから看護の実践技術も当然学ぶわけで、その結果として国家試験受験資格が得られるわけです。私の授業では、1年生の多くが、「看護学だけではなく教養科目を学び広い視野で物事を考える方法を身につけなければ多様な価値観や背景をもつ患者さんを理解することは難しいだろう」と述べています。そして、「提供する看護を根拠をもって説明するためには看護理論が助けになる」とも述べています。さらに多くの学生は、「看護の専門性を高めて、自律した判断をもって、臨床の場で看護の視点で他の職種とディスカッションできるようになりたい」、「看護の視点は患者の利益につながる」と述べています。
学生だけでなく私たち教員もまた看護学の、いわゆる学徒であり、共に学んでいる立場です。実習では学生に新たに気づかされることもたくさんあります。看護学については研究者、探究者として学生と対等の立場でもあると私は思っています。
 
 教育学の領域で使われている言葉に「アンドラゴジー」という言葉があります。ペタゴジーという子どもへの教育技術を表す言葉がありますが、それに対して、アンドラゴジーは大人への教育技術を表す言葉です。一定の経験を踏んだ成人においては、一人の大人として敬意を払い、学習者自身が課題設定や学習計画に参加し、自己評価も行うというもので、教師は情報提供者であり共同探究者であるというものです。皆さんは大学では大人として扱われます。
 
 大学では、私たちは現時点での知識や技術を皆さんに提供しますが、医療技術の進歩とともに使われなくなるものや異なる研究結果が出てきて修正が必要なものもあるはずです。医学の領域でもそうですが、病気の解明が進むと昔の知識は使えなくなることはよくあります。教えられることを鵜呑みにするのではなく、疑問を持ったらそれを大切にしてほしいと思います。教師に疑問をぶつけてみて、納得いく答えが得られることもありますが、わかっていないことも多いので一緒に考えたり文献を探したりすることもあるでしょう。それによって私たち教員も学ぶことになります。

 どうぞいきいきと学んでほしいと思います。みなさんが自由に発想し、屈託なく疑問をぶつけて議論することが大学を育てることになります。この4年間がみなさんにとって価値ある4年間になりますように大学上げて教職員全員が皆さんの学びをサポートするつもりでいます。皆さんを心から歓迎しますとともに、一緒に学ぶことができる喜びを共有させていただきまして、式辞といたします。
 
令和4年4月3日
公立大学法人敦賀市立看護大学
学長  内 布 敦 子
TOPへ戻る