本日、入学式を迎えられた看護学部56名、助産学専攻科7名、看護学研究科2名の皆様、ご入学、おめでとうございます。本年度の入学式はコロナ禍前と同じように、ご来賓の皆様、またご家族の皆様にご参列いただき、入学をお祝いしていただくことができました。大変うれしく思いますとともに、入学生、ご家族の皆様に心からお祝い申し上げます。私たち公立大学法人・敦賀市立看護大学は教職員全員で、皆様のご入学を心から歓迎します。
日本看護系大学協議会が毎年行っている最新の実態調査によると、看護系大学に通う学生は、学部4学年全体で10万人を超えます。そのうち国公立大学の学生は約30%、私立大学が約70%です。18歳人口が減っている中で情報系などいくつかの学部と看護系の定数だけは増えつづけていまして、今年も4つの大学が看護学部を開設し、来年以降も数校で開設が準備されています。現在約300の看護系大学がありますので、日本の大学約800のうち37%の大学が看護学の領域を持っていることになります。
今年の国家試験は、本学は看護師、保健師、助産師共に100%の合格率となりました。今年の国家試験現役受験者は57860人で、そのうち大卒者は41%、その他専門学校等の養成所卒業者は59%と推測されます。4年後には逆転し、大卒者の割合は増えてくと予測されます。病院によっては、新規採用は全員4年制大学卒業生というところもすでにあります。日本看護系大学協議会の調査によると、全国の4年制大学卒業生の就職先は看護師として「病院に就職」が86.6%と圧倒的に多いのですが、「保健師として市町村に勤務」が4.5%、大学院等への進学約5%、その他に訪問看護ステーションや学校の養護教諭、企業での健康管理なども増え始めており、在宅をはじめとして、病院以外の活躍の場も増えています。
例えば、私の知り合いに会社を設立してスポーツナースを育成している看護師がいます。プロからアマチュアまでいろいろなスポーツの大会がありますが、そこに派遣されて救護にあたる看護師です。特にパラスポーツからの派遣依頼が多いと聞いています。この会社は看護師がCEOを務めており、ワンコイン検査といって500円ワンコインで血液検査を含む簡単な検査を行う事業や訪問看護事業を展開しています。検査から予防行動につなげられるように、その場で健康情報を提供するなどのイベントをパチンコ店やスーパーの食品売り場で行って、予防医療を進めるといった事業も行っています。この会社はインドでも事業を展開しています。インドには定期健診という制度がないので、行列ができるほどのニーズがあり、子会社をつくったと聞いています。他にも広島県呉市の例ですが、健康に関する住民データをビッグデータとして解析して、糖尿病悪化の兆しのある人を特定して、看護師が生活習慣の立て直しを個別に支援することによって、糖尿病から透析に移行するのを食い止めています。それによって自治体の国民保険の支出を実際、数億円単位で節約したという看護の研究者がいて、厚労省からも注目されました。
看護としての特性を活かして活躍するこのような例は、例外なく大卒看護師で、特に修士号や博士号を持つ看護師が活躍しています。ケアを社会実践する看護の研究も、2023年度に開催された看護系の学会では多く発表されるようになりました。
看護の仕事内容は時代とともに変わりますが、本質は変わりません。基本は「ケアリング」です。看護師は健康にかかわるケアリングの専門家です。ケアリングは、介護や学校の教員など対人サービスを行う人の基本でもあり、広く用いられています。「ケアリング」は「ケア」にingをつけた言葉です。「他者に関心を寄せる」というのが語源です。ナイチンゲールが165年前に看護を一つの専門的職業にするために書物を書いて学校を開き、教育をした時から、看護の中心はケアリングです。つまり、目の前の人に関心を寄せ、思い諮ることです。そこに専門的な知識と技術の裏付けがあれば、それは単なる関心ではなく、専門家としての科学の目となります。
先に述べたような様々な分野での看護の発展は、必ずその根底に「ケアリング」の理念がなければなりません。そうでないと単なる合理性や効率性だけの政策やお金儲けになってしまいます。ベースとなる「ケアリング」の本当の意味を自分なりに探すのがこれからの皆さんの4年間の仕事といってもいいと思います。
これから皆さんが学ぶ看護学には様々な可能性があります。看護を学問として学ぶために看護大学はあります。学問として学び、ケアリングの基礎を固めることでそのあとの可能性が広がります。どうぞ貪欲に勉強し、看護の可能性を追求してください。
いま私は、皆さんが看護の道を志していただいたことに心から感謝しています。ヒューマニティに満ちた皆さんの意志は非常に尊いものです。敦賀市立看護大学のでは、看護や医学や薬学など保健関連の教員だけでなく、他の学問領域の教員、そして事務職員も総出でみなさんの学びをサポートします。サポートというのはケアの一つであり、人の成長を支えるという意味で、教育もまたケアです。「ケアをする人はケア持って育てるべし」という言葉があります。また、メイアロフと言う人がケアの相互性ということを言っています。「ケアをすることはケアされること」でもあるということです。ケアは必ず次のケアを生みます。ケアを受けた学生は患者さんに豊かな関心を持ってケアを行うことができます。患者さんはその何倍もの感謝を学生に返してくださる。それを受け取って学生はケアされ、成長する。学生の成長をみることで、教員や職員はケアされます。私たちはこの大学で、そのようなケアの循環を生み出したいと思っています。
本学は、敦賀市が設置主体となっており、敦賀市からの支援があって、運営されています。本日は敦賀市の市長さんも来ていただいていますが、皆さんに大きな期待をもっていただいています。4年間、看護の講義や実習を通して、敦賀市や近隣の町の住民の方々、行政や病院施設の皆様の胸を借りて、様々な活動をさせていただくことになります。大卒看護師が増えて、市民の健康水準を上げる!、それくらい影響力のある優秀な看護師が育つと私は信じています。この敦賀の地は、戦争によって追いやられたポーランドの孤児や迫害されたユダヤ人を受け入れ、惜しみないケアを提供した土地として広く知られています。敦賀の地で、深い教養と専門知識、技術を身につけ、「病む人」に出会い、皆さんの中にある「ケアリングの能力」が引き出され、真の看護に出会うことができますように、お手伝いできることに感謝して、お祝いの言葉とさせていただきます。
2024年4月3日
敦賀市立看護大学
学長 内布敦子