本日、入学式を迎えられた看護学部55名、看護学研究科5名、助産学専攻科8名の皆様、ご入学、おめでとうございます。敦賀市長様始めご来賓の皆様、またご家族の皆様にご参列いただき、入学をお祝いしていただくことができ、大変うれしく思います。私たち公立大学法人・敦賀市立看護大学は、教職員全員で、皆様のご入学を心から歓迎します。
入学早々、固い話になりますが、2025年2月に文科省中央教育審議会は今後の大学教育について答申を発表しています。答申では人口減少は避けられないということで、国民一人一人の能力を高め、DX等による効率化によって、将来のいわゆる「日本の総力」としては現状を維持できるように人材を育てましょうと言っています。つまり人口が減るので、効率を上げて一人1.数倍の生産性で働いていただかないと日本の国力は維持できないので、大学教育では1人1人の能力を高めてくださいということです。
人手不足は深刻な課題です。ちなみに、看護師が制度化されて以来、一度も看護師が充足したという年はありません。国の試算では全国の入院患者は2040年にピークを迎え、福井県は高齢化率が高いために平均より5年早く2035年に入院患者数のピークを迎えます。2040年は皆さんが看護師になって11年目にあたります。安心して医療や看護ケアを受けるためにも看護師の確保は、社会的にも大きな問題であり、皆さんへの期待はこれまでにもまして大きくなっています。
看護と言う仕事は、点滴や人工呼吸器の管理、薬剤の投与、異常の早期発見といった医療だけではありません。人間は医学的治療を受けながらいわゆる「生活」をしているわけですので、食べること、排泄すること、身体を清潔に保つこと、人とつながること、生きることに意味を見いだすこと、などがなければ、回復意欲を持って、元の生活に復帰することはできません。もちろん意識のない患者さんもおられますが、看護師はそのような方にも「生活」というものがあるという前提で、栄養を補給し、清潔を維持し、話しかけ、人間として支援します。患者さんの意志を確認して、それを尊重し、納得のいく看護を提供するには時間がかかります。いくらDX時代と言えども効率化することのできない看護があります。効率的にするために患者さんをベルトコンベアーに乗せるような医療では、結果的に回復が遅れますし、その患者さんの病気体験をみじめなものにしてしまいます。
患者さんの生活の質をよくするためにも、医療費を増やさないためにも病院での療養を見直し、例えば保健師のように地域で病気の予防に取り組む活動や外来やクリニックで慢性疾患の管理を支援する活動、それから在宅療養を支える訪問看護など、病院以外の場所での看護が今後注目されると思われます。看護の専門性を使えば、さらに新たな役割が生まれる可能性もあります。
特に、医療経済の点からも在宅での療養に切り替える流れはこれからますます進んでいくと思います。私の専門とするがん看護領域の研究では、「がん患者さんの痛み止めの使用量は、在宅に移行すると減る」という結果がでています。慣れ親しんだ自宅で自分らしくいられるのは、痛みの感じ方にも影響し、使用する鎮痛剤の量が少なくなるということです。
日本の調査では「家で死にたい」という人は49.5%と一番多いのですが、実際どこで死亡しているかというと、「自宅」は12.6%で「医療施設」が80.3%となっています。ちなみに欧米では在宅が30%以上、病院はそれ以下か同じくらいで、あとは施設での死亡ですので、いかに多くの日本人が、望まないまま、病院で最期を迎えているかということです。このような社会のニーズに看護職がどう応えていくかということも是非考えてみてほしいと思います。
近年、高度医療を担う在宅訪問看護ステーションも出てきました。私の教え子で、東京都内で訪問看護ステーションを経営している看護師がいます。経営学の修士号MBAを持つ異色の看護師ですが、東京大学病院、聖路加国際病院、虎の門病院などの都内の大規模の高度先進医療施設と連携して、在宅で高度医療を提供しています。連携ネットワークのアプリを開発して、医療機関や訪問看護ステーションが事例カンファレンスをする仕組みを作り、最適な医療看護を検討するなど、素晴らしい活動をしています。
私は、皆さんに入学のこの時点で、看護活動の場を狭い領域で考えないでほしいと願っています。せっかく4年制大学に入学したのですから、先ほどの看護師のように大学院でMBAの学位を取って、起業することもできます。看護師としてもいろいろな道が広がっています。専門の領域で修士号を取り、がん、小児、感染、急性・重症患者などの領域で専門看護師になる道もあります。病院で看護師の経験を積んで、そこで熟練するのも良いし、病棟管理に関心があれば看護師長、看護部長になる道もあります。ここにいる教員のように、看護学の学位をとって、研究業績を積んで研究者、教育者になる道もあります。いま日本看護協会は、医師の指示がなくても一定の医療行為ができるナースプラクティショナーの制度を日本に作るための活動をしていますので、それも視野に入れることができます。現場で看護の経験を積み、その後、どのようにキャリアアップするのか、将来の目標は今から考えても早すぎません。看護師だけでなく、薬剤師やそのほかの医療従事者の役割も広がっていくと思います。少ない人数で多くの患者さんを支えるには、それぞれの専門性を最大限に活用できるように法律も変わっていくでしょうし、専門職の価値も高められるとおもいます。
この大学は、敦賀市、嶺南を中心として、病院施設、公的施設、訪問看護ステーションなど健康問題にかかわる様々な場所を存分に使わせていただき、実習をさせていただいています。医療関係者だけでなく、行政や地域住民の皆様の協力をいただき、看護師としての広い視野を獲得できるように教育プログラムを組んでいます。看護は地域社会の中で提供されますので、都会であろうが地方であろうが地元の特性抜きには考えることができません。本学では2024年から徹底的に敦賀や嶺南を深く学び、その土地に根差した看護を考えられるように、「つるが発次世代看護研究会」という研究会を発足させ、教員たちは勉強会を重ねています。「地元」という発想で、個々の患者さんが根差している土地や文化を大事にすることが一体どういうことか、考えることができれば、看護をより洗練した内容にすることができます。そしてそういう考え方は、皆さんが将来、敦賀はもちろんのこと、アフリカや離島や国内外のどの地域で働いたとしても通用するだろうと思います。
看護師の社会的役割はこれからの20年、いや10年で確実に変わってきます。本学では、どの時代でもどの地域でも通用するナースを育てたいと願っています。
厳しい時代が続きますが、看護は、社会になくてはならない仕事であり、誇り高い仕事です。最新の米国ギャラップ社の調査(Honesty and Ethics of Professional Ranking)で、看護師はここ20年以上連続で「誠実さと倫理観の高い職業」として今年も1位を維持しています。どうぞこれからの4年間、意志をもって誇り高く勉強してほしいと思います。
最後に、「4年間を楽しく過ごす」ということもお願いしたいと思います。この嶺南地域には豊かな自然が広がっています。学生は敦賀祭りで御神輿を担ぎ、踊りの行列に参加し、大学近くの地区のお祭りにも入れていただいています。子供たちや高齢者の方々が、待っていてくださいます。勉強以外の豊かな時間も持ってほしいと思います。
皆さんが4年間充実した学生生活を送ることができますことを、祈念し、お祝いと歓迎の言葉とさせていただきます。
2025年4月3日
敦賀市立看護大学
学長 内布敦子