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学長式辞(令和5年度学位記・修了証書授与式)

 本日、晴れて卒業式・修了式を迎えられる看護学部 52 名、大学院看護学研究科 5 名、助産学専攻科 5 名の皆様、それぞれに卒業、修了、おめでとうございます。加えて昨日の国家試験合格発表で、看護師、助産師、保健師、いずれも全員が合格しましたこと、おめでとうございます。

 学生生活を見守り続けていただきましたご家族のみなさまにも深い感謝とともにお喜びを申し上げます。本日は、このようにご来賓やご家族の皆様のご参列をいただき、学生の門出をお祝いしていただきますこと、大学として大変うれしく、感謝いたします。
 
 皆さんはこれから健康にかかわるサービスを提供する側になります。多くは医療機関で働くことになると思いますが、医療や看護の質は何によってはかられていると思いますか? 1993年に看護の質を測る指標を開発してほしいということで、厚労省から委託された研究が始まり、私も分担研究者として研究に参加しました。この研究班は、現在全国200ほどの病棟の評価をネット上で行っています。評価の結果をリコメンデーション、つまりここが弱いので改善をすすめますよといった改善ポイントを書いたものを報告書にしてフィードバックし、次の年度の病棟の看護の質の改善活動に使ってもらっています。
 
 指標を開発していた20年ほど前のことですが、神戸の北の方にある中規模病院から依頼があり、その頃はネットでなく、直接出向いて評価していたので、3人くらいの評価者で出かけていきました。私たちの質の調査は、どのような質問をされるか、何を点検されるか前もって送っているので、病棟ではある程度準備をしています。その病院の評価結果は非常に高く、質の高い看護をなさっていることがわかりました。帰ろうとすると調査対象になった看護師さん、確かもうベテランの主任さんだったと思いますが、おいかけてきて、「先生、すみません、私カンニングしたのでそんなに高い点数ではないんです」とおっしゃいます。どういうことかと思って事情を聴くと、実は調査項目の一つに「患者さんのことを十分知っているか、例えばその人が今回の入院でどのようになりたいと思っておられるか、患者さんの希望していることですね、それをきちんと本人と話をして確認して理解しているか」というのがあって、確認して理解していれば最高点が与えられます。「患者の病状や思いをいかによく知っているか」は看護の質を構成する一つの指標なんですね。「早く良くなって退院したいんじゃないですか」なんて本人に確認もせずに回答したら低い点数になります。その看護師さんは、調査で聞かれることがわかっていたので、前の日に患者さんに聞きに行ったそうです。改めて「希望」を聞くなんてことはこれまでなかったんですね。その患者さんは男性で70代後半で骨折で入院されていました。診療記録には「認知症の疑い」と書かれていていました。まともに自分の希望を言えないだろうと看護師さんは思いこんでいたのですが、「あのう、今回の入院でどのようになりたいですか」と聞いてみたそうです。そうしたら患者さんがキッと目を開いて、おっしゃったのが「大手を振って廊下を歩きたい!」ということでした。ベッドから廊下を歩いている人が良く見えるんですね。確かにこの方は大腿骨骨折で術前術後含めると2週間くらい歩いていませんでした。そして続けておっしゃるには「わしは、りんどうのさとから来たでな。加藤さんに妻の位牌を預けとるから、はよう歩けるようになって位牌を返してもらって線香をあげんといかん!」と力強くおっしゃったそうです。確かにこの方はりんどうのさとから来られたひとでした。翌朝、今日は調査の人が来るのでよろしくと言いに行くと「看護師さん、ちょっと」と看護師を呼び「今日のわしのリハビリの予定はどうなっているか、退院のめども教えてほしい」と言われ、認知症で何もわかっていないと思い込んでいた看護師さんはびっくりですね。ステーションに戻って「みんな、あの人は認知症なんかじゃないよ」と皆に伝えたそうです。そういうお話でした。それでカンニングの件ですが、しつこく減点してくださいとおっしゃるので大変困りまして「でもご本人にきちんと確認されて正確な情報をお持ちですよね」と念をおすと「はい、でも・・」とおっしゃる。何度かそういう押し問答があり、私もなんだかおもしろくなって聞いてみたんです。「それでね、看護師さん、患者さんの希望を聞いたとき、どうでしたか?」って。そうしたら看護師さんは、ぱあっと笑顔になって、「それが・・、すごくうれしかったんです」とおっしゃるんです。「腕を振って廊下を歩きたいと言われたときは、すごくその気持ちが伝わって、そうか、2週間くらい歩いていないものね。そうだよね、歩きたいよねと思いました。それから、ああ、奥さんの位牌が気になっているんだな、良くなって位牌を手元に置きたいんだな、と、なんでしょう、こうぐっと来たんです。」と言われました。そして「こんな風に患者さんに真正面から希望を聞いていなかったので、これからひとりひとり希望を聞きたいです」とおっしゃったんです。私は「それは良かったですね。それからね、減点はしませんよ。ちゃんと本人に確認して患者さんのことを理解しておられますからね。ありがとうございました」と言って大学に帰ってきました。みなさん、患者さんを知る、理解するってどういうことでしょうね。事実を確認して知っているということも大事ですが、患者さんの事実にこんなふうに看護師の魂が揺さぶられるということもくっついていないと、理解したとは言わないと思うんです。学生は実習でこういうことを一番大事と教員から言われ続けていると思います。そんなこと当たり前だと思うかもしれません。でも、もうずいぶん前から、現場では、患者さんが言いたいことではなくて、医療側にとって必要な情報しかとろうとしないようになってしまいました。いろんな現場の事情があると思いますが、このようにきちんと患者さんに向き合う場面を見かけることは少なくなりました。現場に慣れることは大事ですが、業務優先になり、看護が付いてこなくなることがあります。
 
 みなさんは4年間で多くの知識や技術を学び、考える力、看護としての価値観を身につけてきたと思います。毎日の責任ある仕事や患者さんへの専門的な対応を支えてくれるのは知識と技術、考える力、そして感じる力だと思います。魂が揺さぶられるような経験をたくさんして、質の高い看護というものを作り上げてくださることを心から期待しています。

 10周年を機に、卒業生ネットワークも作っています。敦賀市立看護大学からネットワークを通して多くの発信もさせていただきます。この敦賀の地は皆さんの看護の出発点です。敦賀にいて看護師として頑張る人も外に出る人もいると思いますが、何かあったら戻ってきて相談もしてほしいと思います。どうぞ、どこにいても、看護学士、看護学修士、助産師としての使命を全していってください。皆さんのご活躍を応援して、お祝いの言葉とします。    
 
令和6年3月23日
敦賀市立看護大学
学長 内布敦子
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