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学長式辞(令和5年度入学式)

 本日、晴れて入学式を迎えられた看護学部56名、助産学専攻科6名、看護学研究科4名の皆様、ご入学、おめでとうございます。本日は3年越しでご来賓、ご家族の参加が叶いまして、お迎えする私たちも大変うれしく、お祝い申し上げます。私たち公立大学法人敦賀市立看護大学は教職員全員で、皆様のご入学を心から歓迎します。

 ところで、新入生の皆様は、感染拡大防止のために、行動制限をはじめとして、様々な制限を受けながら高校生活を送られたと思います。経済も落ち込み、なにもかもマイナスの経験のように思われますが、世界中の人が死と隣り合わせになりながらも、自分のためだけでなく他者のために自らの行動を制限するという、貴重な経験をしたとも言えます。そしてその制限の中にあっても、目標を見失わず、受験勉強を継続し、入学を果たしたという経験はほかの年代にはない経験だと思います。

 私は、まず皆さんが看護の道を志していただいたことに心から感謝しています。人々は、自己実現を重ね合わせて将来の仕事を選択し、そのために努力します。皆さんの場合、看護学を学ぶことを選択した時点で、めざす自己実現は「人の助けとなる」というヒューマニティに満ちたものであり、それは非常に尊いことだと思います。
 
 みなさんは、「看護師になる、助産師になる、保健師になる」といった目標を掲げて入学なさるかもしれませんが、大学は学問をするところですので特定の職業に就くことを目標とするだけでは、存在意義がありません。看護大学の本来の目標は「看護学」と言う学問を修めていただくことです。ただ、その途中に「看護師、助産師、保健師」という職業があり、病院、保健所、訪問看護ステーションなどで免許を持って看護サービスを提供し、社会に貢献することができます。

 看護学は、医師が病気の解明や治療法の開発をするのに対して、健康にかかわる「人間の反応」を解明することや、生活を中心としてその反応への支援技術を開発することを主な使命としています。痛みなどの症状や手術からの回復なども看護の対象ですが、もう少し複雑な、例えば、がんの告知を受けた時の人間の反応、難しい治療選択を迫られたときの意思決定の困難さ、体の一部に麻痺が残ると診断されたときの人間の苦悩、災害時におこるパニックなども看護の対象になります。
 
 看護の中心となるのは「ケアリング(ケアにingをつけてケアリングといいますが)」という考え方です。この「ケアリング」の考え方は、看護としておこなう行為や看護学の研究のベースになっており、これは世界共通です。世界中の看護師や看護学の研究者は、「ケアリング」をベースとして活動することを求められます。
 
 「ケアリング」についてはこれから学びますが、語源的には「(誰かを)心配をする、注意を向ける、関心を持つ」という意味があります。まずは、入学一日目の今日は「看護はケアリングがその中心にあって成り立っているらしい」と、覚えておいてほしいと思います。安楽に関する実験を行ったり、皮膚の変化を詳細に観察して褥瘡になる前に防いだり、手術後の変化を予測して事前に合併症を防ぐといった看護はすべて、「ケアリング、すなわち他者への関心」が出発点であるということです。看護師と言えば、注射や点滴、人工呼吸器を操作する姿を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、このような医療処置をされる患者さんがどう反応するか、例えば、集中治療室という環境に人間はどう反応するか、家族の心配はいかばかりか、この人の人間としての尊厳を24時間どのように守るか、回復力の邪魔をしているものはないか等、患者さんに関心をむけることがまず大事です。患者さんへの関心がなければ、単なる手順書にしたがった医療処置に過ぎなくなります。
 
 敦賀市立看護大学では、看護や医学や保健関連の教員だけでなく、他の学問領域の教員、そして事務職員も総出でみなさんの学びをサポートします。サポートというのはケアの一つであり、人の成長を支えるという意味で、教育もまたケアです。「ケアをする人はケア持って育てるべし」という言葉があります。また、メイアロフと言う人がケアの相互性ということを言っています。「ケアをすることはケアされること」でもあるということです。ケアは必ず次のケアを生みます。ケアを受けて育った学生は、ケアを受けた分、他者への関心を豊かに持つことができます。
 
 この敦賀の地は、シベリアからのポーランドの孤児や迫害されたユダヤ人を受け入れ、惜しみないケアを提供した土地として知られています。みなさんが4年間、修士では2年間、助産にあっては1年間、この敦賀の地で、広い教養と専門知識、技術を身につけ、「病む人」に出会い、皆さんの中にある「ケアリングの能力」が引き出され、真の看護に出会うことができますように、お手伝いできることを楽しみにして、お祝いの言葉とさせていただきます。
 
2023年4月4日
敦賀市立看護大学
学長 内布敦子
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